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三島由紀夫『三島由紀夫のレター教室』(1991年、ちくま文庫)

 前回のエントリーでふちゃふちゃ文句を言っていたにもかかわらず、続けて三島由紀夫を読む。「ふん、嫌な男!」というところから始まる恋心など乙女にとっては日常茶飯事ですのでお許しあそばせ。5人の登場人物により、様々な目的のためにしたためられた手紙によって構成される書簡体小説。これまで読んだ二冊に比べてほーんと、くっだらないんだけど一番好きかも。

 

「こちらが手をついて、お礼をいわなければならないような感じですが、その威張った『彼』が、授乳となると、無我夢中で、こちらの胸にむしゃぶりついてくるのですから、それこそ、かわいくて、かわいくて、かわいくて、かわいくて(これを百ぺんくりかえし)、たまりません」(65頁)

 

「ともすると、恋愛というものは『若さ』と『バカさ』をあわせもった年齢の特技で、『若さ』も『バカさ』も失った時に、恋愛の資格を失うのかもしれませんわ。私にはそれが骨身にしみてわかっているつもりです。

 それはそうと、私は、あのタケルという青年も、ミツ子という娘も、二人とも大好きです。

 あなたみたいな、ネコキチガイの中年の金持ちデザイナーより百倍も好きです。好きだから、ちょっといじめてやりたい気持ちにもなり、あなたの悪だくみに加担する気にもなるわけね」(87-88頁)

 

「ぼくたちは若いんだし、健康なんだし、どんなことをしたって、子供の一人や二人育てられないわけはない。ぼくも父親だと思うと、責任を感じるよりも、人生と社会に一つの足場を得たという強い自信が湧き出てくる。

 これは決して一時の感情でいうのではないんだ。子供を重荷と感じて、自分たちの自由と快楽をいつまでも追おうとするのは、末期資本主義的享楽主義に毒された哀れな奴隷的感情だと思うんだ。

 遊びたかったら、夫婦でネンネコおんぶで遊びに行けばいいじゃないか。いつだか、エロダクションの深夜映画に、夜中の二時頃の丑満時、ネンネコおんぶで見物に来ていた若夫婦がいて、あんなのは全く感心しないけど」(152頁)

 

この末期資本主義的享楽主義って言葉、言い得て妙だし語感がよくて好き。この手紙は、妊娠を告白した彼女に対する返信なのだけど、ぜんぜん自惚れたところもなければ、おじけずくところもなくて、本当に心から喜んでいるのがわかる素敵な手紙だと思う。青い感じはするけど、新緑みたいに若々しくて、瑞々しくて、顔がほころぶようなお手紙。

 

「こんなこと言ってるとキチガイみたいだけど、テレビばっかり見てると、どうしても世界中のことがみんな関係あるような気がしてきます。テレビの前で食べてる甘栗は、中共から輸入されたものだろうし、君の妊娠だって、思わぬことで、何か世界情勢と関係があるかもしれません」(176頁)

 

「そこのバーの紫いろのゆったりした椅子が、私を喜ばせました。だって、私は紫いろの洋服を着ていて、その濃淡が、とても椅子とよく合ったのですもの。

 『ほう。すばらしい色彩設計だ。実にエレガントだね。ここの店の椅子の色を知ってて、ここに来たんでしょう』

 『あら忘れていたわ』

 『潜在意識に残っていたんだね。そして、前に来たとき、こう思ったんでしょう。いつか山ちゃんと二人でここへ来たいと』

 『まあ、自惚れ屋ね』」(209-210頁)

 

「それからいきなり『柿の木の向うに沈む夕日』に付き合わされるわけだが、これもとんだ災難です。植木屋じゃあるまいし、私は人の家の柿の木なんかに興味はありませんし、柿泥棒を働いたこともありません。

 結婚について感想をきかせろ、ということですが、見ず知らずの人に、結婚について長い感想を書き送るなんて、ノイローゼ患者のやることで、私は別にノイローゼを患ってはいません」(220頁)

 

これが三島由紀夫の作品かってぐらい、観念的なところもなければ高尚なところもなくて、本当にただのつまらない小悪党や自己愛の強い青年たちが出てくる風俗小説なんだけど、手紙の言い回しとか、物語の展開の起伏がとっても面白いの! 変にいいものを書いてやろうっていう気概が全然なくて、ただただ娯楽のためだけに書かれているのがかえって嫌味がなくて好き(とはいえ、間抜けな丸トラ一が道化となって登場人物たちのゴタゴタが解決していくのはシェイクスピアあたりをオマージュしてんじゃないかと思うんだけど)。

 

一癖も二癖もある登場人物の手紙は、どれもお決まりの詰まらない定型文とは程遠くて、とっても自由にしたためられているので、こんな風に楽しい手紙を書けたらなぁと思わざるを得ない。それにしても、解説で群ようこ(10年以上前に一度読んだことがある気がするんだけど、恋愛小説作家だったか?)が、若い頃に読んだ時はあまりよく解らなかったが年を取ると氷ママ子の嫉妬心が他人事ではなくなってきた、登場人物の女性が鼻持ちならないのは、三島由紀夫が「あなたたち女性は嫌らしい性格を持っているのですよ」と伝えたかったからだという旨のことを書いてるのだけど、阿呆か、と。登場人物のどこに共感しましたか?作者は何を言いたかったのですか?って小学校の国語のテストかよと言いたくなるような貧しい読み方をなさっていて、こーんなセンスの欠片もないような文章を大きな顔して文庫版解説に書いているのだから、個人ブログでひっそり書いている読書感想文なんて、何を書いてもいいんだなぁ、と勇気をいただきました。さんきゅ♡

 

 

 

三島由紀夫レター教室 (ちくま文庫)

三島由紀夫レター教室 (ちくま文庫)