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山尾悠子『角砂糖の日』(LIBRAIRIE6, 2016年)

 2月も半ばながら今月はゴシック&オカルティック月間にしようと決めたので去年購入した山尾悠子の歌集を読むことに。山尾悠子はこれまで『ラピスラズリ』、『夢の遠近法』の二作を読了済み。

 

百合喇叭そをまくらとして放蕩と懶惰の意味をとりちがへ、春 (12頁)

 

懲罰の部屋にありては支那ふうに脚を歪めて坐るべきこと (24頁)

 

狼少年と呼ばれて育ち森を駆けぬけて今日罌粟の原に出ぬ (30頁)

 

春眠の少年跨ぎ越すと月昏らむ いづこの森やいま花ざかり (45頁)

 

変身譚の夜を語りて去りたれば水ぞ昏れ落ちしづむ蘭の火 (46頁)

 

昏れゆく市街に鷹を放てば紅玉の夜の果てまで水脈たちのぼれ (49頁)

 

葡萄月・酢牡蠣・酸蝕白真珠 歯に貝殻の硬さ欲る夜は (50頁)

 

婚礼の果つ夜小暗き森を出で薔薇の縁となれ眠りの地平よ (55頁)

 

往還を眺めてあれば憂ひうらら瀰漫のさくらに子らしのび泣けり (65頁)

 

夢醒めの葛湯ほろろに病熱の抱きごころ午後のうす甘かりき (73頁)

 

曼珠沙華 幻燈の野には禽殺しわろき狐ぞその禽恋ひてき (81頁)

 

独逸語の少年あえかに銀紙を食める日にして飲食のことを憂し (87頁)

 

山尾悠子の王国!The Ream of the Unrealである。三十一文字の御伽噺だ!美しい少年少女と倦怠と甘美さと侏儒の物語。「蘭の火」、なんて美しくてナンセンスな言葉だろう。とっても好き。幻燈の野に棲むわるい狐は恋をしている。素晴らしきリアリズムの唾棄。

山下陽子が挿絵を提供しているけど、彼女のシュルレアルな作品と同じく、山尾悠子もまた超現実の世界で言葉を切り貼りすることで歌を作っているのじゃないかしら。怠惰で残酷な彼女の春の王国について。後書きで塚本邦雄寺山修司の短歌に触発されて制作したと書かれていたので彼らの短歌も気になる。読んでみたい。

角砂糖の日(新装版)

角砂糖の日(新装版)